口がきけない子の話 2 再会

小学5年生に進級した私は、再びMさんと同じクラスになりました。が、4月の時点では特に気にしてませんでした。「あの子とまた同じクラスなんだ〜」位で。というのも、当時の私の関心は、ある二人に集中していたため。一人は重複障害の男子Yくん(彼については後に色々書く予定)。もう一人は3年時に転校してきたHさん、という女子(この子についても、すごいエピソードが沢山あります)。この二人はどんな人なんだ?同じクラスになったらどうなるんだ?と少し不安だったのです。ちなみに担任は「中華思想と出会った日」の記事に登場した、グループ学習&中国&韓国大好き❤️なN先生でした。

転機は6月中旬のこと。何かのグループ学習の時でした。私が友人5・6名とグループを組んでいた所、先生があぶれていたMさんを連れてきたのです。(グループ分けは’好きな人同士’方式)

「この子を入れてあげてくれる?」

と。リーダーだった私は「いいですよー」と即答。まぁ、同じクラスなんだからそんなこともあるだろう、と軽ーく考えていたので。彼女が「勉強のできない子」だとはわかっていましたが、この人数で手分けすればなんとかなるだろう、と楽天的に考えていました。しかし、この時私はグループ全員の同意を取り忘れた気がします。もしかしたらその他メンバーから「勝手な人」だと思われたかもしれません。

で、そのメンバーでグループ学習を開始してまず驚いたのが、Mさんが全く喋らないこと。うんともすんとも言わないのです。意思表示は首振りのみ。どころかずっと下を向いていて、ろくに視線すら合わせてくれない。なぜ?どうして?と、かなり戸惑いましたが「きっとかなりの恥ずかしがり屋なんだな、相当緊張してるんだろうな」と思い、「そのうち慣れたら喋ってくれるだろう」と、時間の経過に任せる事にしました。

むしろ閉口したのは彼女の身体から漂う異臭でした。何というか、

汗まみれのTシャツを3日くらい発酵させたような臭い

をMさんは全身から放っていたのです。気付いた時はとにかく衝撃!でしたね。「何だ!?このニオイは!?」と。しかし、周囲の誰も反応しない。かと言って自分から「何か臭わない?」と切り出すこともできず、ただ黙々とグループ学習を進める他ありませんでした。「梅雨時で蒸れてるんだから仕方ない。梅雨が終われば何とかなるだろう」と微かな希望を持ちながら。そんなこんなでしたが、何とか皆(Mさん以外のメンバー)で話し合い、成果をまとめ、約3週間後にグループ学習を無事に終了させることができました。

しかし、「ニオイ」とはダイレクトに脳に届くもの。このグループ学習が終わる頃には、「Mさんの近くに寄らざるを得ない時は、息を止める」という習慣がすっかり身についていました。トホホ。

口がきけない子の話 1 出会い

私は、「その子」と出会ったのは小学1年生の時のこと。そして、小学1・2、5・6及び中学3年生の5年間、同じクラスでした。(小学校のクラス替えは2年ごと)先に結論を書いてしまうと、その5年の間、彼女が「人語」を話しているのを聞いた事は一度もありません。彼女のことを、以下「Mさん」と呼びます。

実は小学1・2年時は、同じクラスにいながら、Mさんとは殆ど接点がありませんでした。覚えているエピソードは以下のものだけです。

第一のエピソードは、

「国語のテストで、クラス最低点をとっていた」

こと。確か単元は「たぬきの糸車」で点数は「20点」でした。何で私が知っているのか?というと、クラスの男子が騒いでいたから。

「おい、こっち来てみろよ!すんげーバカがいるぜ!」

と。んで私、野次馬根性丸出しで見に行ったところ、クラスメイトの輪の中で、Mさんは自席に座っていました。20点のテストをドーン!と机の上にのせて。「見ないでよ!」とは言われなかったですね。しっかし普通、テストで悪い点を取ったら人に見られないように、裏返すなり隅っこを三角に折るなりするのに、Mさんはそれをやっていませんでした。(だから点数がわかった)かと言って、「さぁ、見てくれ!」と胸を張っている訳でもなく、彼女はひたすら下を向いて黙って固まっていました。(表情は読めなかった)この子は、テストを見られたいのか・見られたくないのか、それすらわからなかったことをよく覚えています。

そして、ある設問とその回答も忘れられません。「作中の月の形をひらがな4文字で書け」という設問がありまして、正答は「まんげつ」でした。が、何とMさんの回答は「みかづき」だったのです。一瞬「どの辺りが、’みかづき’なんだ!?」と面食らいました。しかもその文字が、釘を曲げたようなカクカクした文字。まるでサスペンスドラマの脅迫状みたいで、少し怖かったですね。。

第二のエピソードは、「休み時間に一人で机を見つめていた」こと。私が休み時間に友人の席で話し込んでいた時、ふと顔を上げると少し離れた自席で一人座っているMさんが。Mさんは、ひたすらじいっと机を見つめていました。折り紙する訳じゃなし、お絵描きする訳じゃなし。「机を見つめていると、何かいいことがあるのか?変わった人だな」と不思議に思いました。

第三のエピソードは、「とにかくいつも下を向いていた」こと。当時、何かの拍子にクラスの女子全員が輪になった事があるのですが、やっぱりMさんは下を向いていました。ハンカチを手に持って口に当てて、モジモジしながらもどこか嬉しそうな感じはしていたのですが、彼女は一言も喋らないのです。なので彼女の本心は奈辺にあるのか、全くわからない。

その他のエピソードとしては、Mさんは顔と体の皮膚がいつもボロボロだったこと。しかし私もアトピーだったので、人の事は言えませんでしたが。まぁ、お互い大きくなったら良くなるだろうと漠然と考えていたので、それは気になりませんでした。また授業中、教科書の読みが当てられても、Mさんの方向からは何も聞こえませんでしたが、これも気になりませんでした。入学したてで緊張してるんだろうと思えたので。それに、声が小さくて聞こえない女子は他にもいましたし。

小学1・2年時のMさんの印象をまとめると、以下のものになります。

「すごく大人しくて、成績の悪い子」

「よくわからない、不思議な人」

要は「人畜無害な変人」。このままでいられればよかったのですが、その後そうではなくなるのです。残念な事に。その後の3年間で、私は彼女と嫌な思い出を山程作ってしまう事態になるのです。