口がきけない子の話 5 親への疑念1

小5の6月のグループ学習をきっかけに、いつもMさんとセットにされる様になってしまった私。ほぼ毎日その子と向き合っていた中で内心、ある疑問が膨らんでいきました。前回も少し書きましたが、それは、

この子の親はどういう人なのか?

ということ。まぁ、当然ですわな。欠点のカタマリの様な我が子を、ひたすら放置している(様に見える)のですから。普通子供は、学校での出来事を家で家族に話すもの。親もそれを聞いてあれこれ動くもの、だと思っていたのですが、M家では違ったのでしょうか?Mさんが家族とも話せない人だったら、そうかもしれません。でもその可能性は低いでしょう(理由は後々書きます)。

Mさんの抱える問題は

  1. 口がきけない
  2. 異臭を放つ
  3. 勉強ができない
  4. 肌がボロボロ
  5. 字がかなりの癖字
  6. 異常な程痩せている

の6つ。まず、1.は可視化出来ないので気づくのが遅れた、としても後半の4つは目に見える訳です。しかも一つ一つそれなりに対処法があるのに、小学1年時から何一つ改善していない、というのはどう見ても変でした。Mさんの親がいい病院を探している、という話は聞かなかったし(病院の評判なんて、おかんネットで即出回るものです)、いい塾や家庭教師を探している、という話もこれまたナシ。子供心に、我が子に関心がないのか?と思うレベルでした。

さて、2.はどうか。やっぱり可視化できない、とはいえ事は「ニオイ」です。なぜ気付かない?なぜ異臭を放つ我が子を(少なくとも半年以上)放置するのか。一家全員が鼻の病気なのか、全員臭っていて気づかないのか。それとも異臭をフェロモンだと勘違いしているのか。私はてっきり

「M家は風呂無しアパートに住んでいて、銭湯に行くお金もない可哀想な貧乏人」

だと思ってしまいましたね。これがまた、「一家全員臭いから、当然Mさんが臭っていることに気づかず、父親も臭っているから出世できず、貧乏暮らしのままなのか!」と、脳内で辻褄合いまくり。なんでこんな発想になったのか?と言いますと、当時読んでいた本の影響でしょうね。「昔の暮らし」みたいな本で「入浴、というのはキレイな水を何十リットルも沸かして使う、とても贅沢なことだった」と書かれていたので。M家はそんな「贅沢」が許されない家なんだな、きっとガス代も水道代も払えないのだろう、と早合点。

「Mさんちは貧乏だった、という結論が出ると、もう彼女に対しては表向き同情するしかありません。そしてこの強烈な結論でもって、その他5つの問題が解決されない理由すら説明ができてしまうのです。「貧乏だから」・「教育相談にも連れて行ってもらえないんだな」「塾も通信添削もお習字もやらせてもらえないんだな」「病院にも連れて行ってもらえないんだな」「まともにご飯ももらえないんだな」と。

「病院にも〜」というのも前述の本の影響ですね。「医者にかかるのはお金がかかった」と書いてあったので。(当時は国民皆保険、なんて知りませんでした)

そんなこんなで、小5の3学期末の時点で、私は気がついたらMさんとセットでクラスから孤立していました。ノーブレス・オブリージュもどきの義務感と前述の同情とで、なんとか自分を奮い立たせていましたが、この頃から漠然とした不満としんどさを感じてるようになっていました。(当時はあまり自覚してなかったのですが)

1.についてはそれから延々と、なんと中学卒業時まで悩み続け、イラつき続けることになります…

蛇足:Mさんには、2歳上の姉がいたらしいのですが、私はこの人に会ったことがありません。どんな人かわかっていれば、耐えるだけでなくて、もう少しまともに対処ができたかも、と考えてしまいます。

口がきけない子の話 4 確信

小学5年も3学期に入り、またしてもグループ学習の時、先生はMさんを私のグループに連れてきました。「二度ある事は三度ある」のことわざ通りに。鈍チンの私はここでようやっと気づくわけです。

「これは絶対に偶然じゃない。明らかに、先生はこの子を私に押し付けている」

と。正直に心の声を書いてしまうと「うわぁ……またかよ…」という明らかなうんざりモードが大半でした。実は前回の2度のグループ学習の他にも、授業で「(好きな人同士)2人組を作りましょう」という時に、Mさんと組んだことが何度かあったんですよね。理由は当然、先生が連れてきたから! 「なんで私は、この子といつも一緒なんだろう?」と、疑問が芽生え出した所でして。状況的に、Mさんの意思だとは考えづらかったのです。なにせMさんは、先生とも話せなかったのですから。

うんざりしてるなら断れよ、と思われるかもしれませんが、断れませんでした(泣)。理由は以下の3つです。

  1. 先生が巧妙
  2. 私が「前向きな勘違い」をしてしまった
  3. 私がMさんに同情してしまった

と言っても、2. と3.が主になりますが。

まず、1.の理由。先生がMさんをわたしのグループに連れて来る時は、必ずその他全てのグループに断られた後だったのです。その状態で断わるなんて、とてもとても。Mさんの行く所がなくなってしまって、こちらがいかにも悪人、になってしまいます。

次に2. の理由。「前向きな勘違い」とはなんぞや?というと、私の頭に一瞬浮かんだ、以下の様な考えのことです。

「私は心優しい優等生だから、先生から信頼されているんだ!!よーし!頑張っちゃうぞー!!」

とorz。実にオメデタイ。しかも「心優しい優等生」って、自分で言うなって感じです。が、当時の私はクラスでは成績上位者。特に周囲とトラブルを起こしたこともない。「心優しい優等生」と言う単語が、そこそこマッチしていました(はず)。うんざりしながらも、私って頼りにされている!期待されてる!と多少の誇らしさを感じて引き受けてしまいました。

で、大半はうんざりモードで始まったグループ学習。私がMさんに話しかける頻度は、明らかに減りました。幾ら話しかけてもMさんは、ひたすらだんまり状態。もう、「耳聞こえないのか?」と疑うレベル。どころかちょっと話しかけると、ビクッと硬直してしまう。そして話しかければ話しかけるほど、下を向いて小さくなってしまうのです。なんだかこちらが悪い事をしているみたいで、実に気まずい。当然Mさんと一緒にいてもぜーんぜん楽しくない。Mさん本人も、私達といてもあまり楽しそうに見えませんでした。

その他の面でもMさんは、相変わらずでした(悪い意味で)。成績は低空飛行。授業中教科書の読みが当たっても、そちらの方向からは何も聞こえてこない。恥ずかしがり屋にも程がある、というかいつまで恥ずかしがってんだ?と苛立ちすら覚えましたね。肌も小1の頃と同様、ボロボロのまんま、顔が赤と白のホルスタイン状態になってました。(赤→炎症を起こしている所・白→乾燥して粉を吹いている所)私も少しよくなったとは言えアトピー体質。なのでそれが辛い・酷い状態なのはよくわかる。で、彼女を見ているとこっちまで痒くなってしまうのです。それを避けるため、出来るだけ彼女を凝視しないことを心がける様になりました。痒くなっても、Mさんが薬代を払ってくれるわけではないので。そして、真冬なのに臭う。その上Mさんは、異常なほどの痩せ型。単に痩せているだけ、なら別に気になりませんが、ここまで欠点が揃い踏みだと、どうしても穿った目で見てしまいます。「この子の家庭ってどうなってんの?何で欠点だらけのまま放置されてるの?」と。

これが3. の「同情」の理由です。欠点のカタマリの様なMさんを、突き放すなんて酷いことはできませんでした。だって私は「先生から信頼され、期待されている」・「心優しい優等生」。期待に応えなければ!という使命感?と、落ちこぼれには優しくしなくては!と言う謎の義務感?の様なものが、私を縛っていました。ノーブレス・オブリージュの亜種みたいなものでしょうか。

口がきけない子の話 3 変化

さて、小学5年生も二学期に入った9月下旬、私はまたグループ学習でMさんと同じグループになりました。いきさつは前回とほぼ同じ。「好きな人同士」で、私が友人数名とグループを組んでいた所に、先生がやはりあぶれていたMさんを連れてきたのです。

「この子を入れてあげてくれる?」

と。この時は「えっ?またなの?」と、ちょっと戸惑いました。(その時も私はリーダーだった)でもまだ2回目、これは偶然の範囲だろう、と無理矢理自分を納得させて受け入れました。しかし同時に、一瞬嫌な予感がしたのも事実です。「二度ある事は三度ある」、このことわざが脳裏に浮かびました。

そしてグループ学習が始まったのですが、やはりMさんは全く口をきかない。これにはかなり戸惑い、困りました。グループ学習とは皆で話し合って行うものなのに、話し合い自体が成立しない場合どうやって進めたらいいのでしょうか。

質問、そんなに難しかった?それとも私はそんなに怖い人間なの?

とにかく、彼女にも楽しくグループ学習して欲しかったので、個人的にあれこれ工夫してみました。例えば以下のように。

  • 質問を、Yes/Noで答えられる簡単なものにする
  • 何かにつけ、しょっちゅう笑いかける
  • 一発ギャグをかます

等々。でも、彼女は一言も発さないのです。流石にYes/Noは、首振りで答えてましたが。何となく嬉しそうな雰囲気はあったのですが、彼女は大抵下を向いていたので正確な表情が読めず、「喜んでいる」とも断定できない。しかし、Mさんを放ったらかしにするわけにもいかないので、そこそこ話しかけるのですが、いくら話しかけても返ってくるのは9割方沈黙(1割は首振り)。毎度毎度、暖簾に腕押し・糠に釘状態。私や周囲が幾ら工夫しても、それが殆ど報われないのです。虚しいやら困るやら。

原稿の清書を頼もうにも、彼女の書く字は例の「釘を曲げた様なカクカク文字」。とてもじゃないが、頼めるものではありませんでした。

そして、梅雨が終わっていたにも関わらず

Mさんは相変わらず臭っていました。

そして、やっぱり周囲の誰も指摘しない。私もその一人でしたが、それは「子供が臭うのは親の責任」だと思っていたため。Mさんを責めてもどうしようもない、悪いのはMさんの親だ、と考えていたからです。本当に臭い人に対して、面と向かって「臭い!」とはなかなか言えないもの。私にできることは、先生が3者面談等でMさんの親に指摘してくれることを期待する事と、Mさんの近くに寄る際は息を止める事、位でした。で、先生はMさんから漂う異臭に気付いていたのか?というと、「多分、気付いていた」と思います。先生はかなりMさんの近くに寄っていましたから。背後からMさんの両肩に手を置いて、「ねっ!」みたいな事もやってましたし。

こうして、私のMさんに対する印象は、確実に変わって行きました。それも悪い方に。「人畜無害な変人」から「グループ学習のお荷物」へと。

口がきけない子の話 2 再会

小学5年生に進級した私は、再びMさんと同じクラスになりました。が、4月の時点では特に気にしてませんでした。「あの子とまた同じクラスなんだ〜」位で。というのも、当時の私の関心は、ある二人に集中していたため。一人は重複障害の男子Yくん(彼については後に色々書く予定)。もう一人は3年時に転校してきたHさん、という女子(この子についても、すごいエピソードが沢山あります)。この二人はどんな人なんだ?同じクラスになったらどうなるんだ?と少し不安だったのです。ちなみに担任は「中華思想と出会った日」の記事に登場した、グループ学習&中国&韓国大好き❤️なN先生でした。

転機は6月中旬のこと。何かのグループ学習の時でした。私が友人5・6名とグループを組んでいた所、先生があぶれていたMさんを連れてきたのです。(グループ分けは’好きな人同士’方式)

「この子を入れてあげてくれる?」

と。リーダーだった私は「いいですよー」と即答。まぁ、同じクラスなんだからそんなこともあるだろう、と軽ーく考えていたので。彼女が「勉強のできない子」だとはわかっていましたが、この人数で手分けすればなんとかなるだろう、と楽天的に考えていました。しかし、この時私はグループ全員の同意を取り忘れた気がします。もしかしたらその他メンバーから「勝手な人」だと思われたかもしれません。

で、そのメンバーでグループ学習を開始してまず驚いたのが、Mさんが全く喋らないこと。うんともすんとも言わないのです。意思表示は首振りのみ。どころかずっと下を向いていて、ろくに視線すら合わせてくれない。なぜ?どうして?と、かなり戸惑いましたが「きっとかなりの恥ずかしがり屋なんだな、相当緊張してるんだろうな」と思い、「そのうち慣れたら喋ってくれるだろう」と、時間の経過に任せる事にしました。

むしろ閉口したのは彼女の身体から漂う異臭でした。何というか、

汗まみれのTシャツを3日くらい発酵させたような臭い

をMさんは全身から放っていたのです。気付いた時はとにかく衝撃!でしたね。「何だ!?このニオイは!?」と。しかし、周囲の誰も反応しない。かと言って自分から「何か臭わない?」と切り出すこともできず、ただ黙々とグループ学習を進める他ありませんでした。「梅雨時で蒸れてるんだから仕方ない。梅雨が終われば何とかなるだろう」と微かな希望を持ちながら。そんなこんなでしたが、何とか皆(Mさん以外のメンバー)で話し合い、成果をまとめ、約3週間後にグループ学習を無事に終了させることができました。

しかし、「ニオイ」とはダイレクトに脳に届くもの。このグループ学習が終わる頃には、「Mさんの近くに寄らざるを得ない時は、息を止める」という習慣がすっかり身についていました。トホホ。