口がきけない子の話 9 筆談と手話

さて、口がきけないMさんといつも「まとめ」られ、当然彼女との意思疎通に難儀していた私。そんな私の頭の隅にしょっちゅう浮かんでいたのは、

筆 談

というアイデアでした。Mさんは確かに口がきけません。しかし読み書きはできる(多分)。従って、「Mさんと筆談でコミュニケーションがとれないか?」という考えに至るのは自然な事でした。しかし結局、Mさんと筆談した事は、その後の3年間でただの一度もありません。理由は複数ありますが、最大の理由は「紙がなかったから」です。

筆談の最大の欠点は、筆談用の紙をわざわざ準備しなければいけないという事です。筆談を最も必要としているのは、Mさん本人。当然Mさんや彼女の親が筆談用紙を準備すべきです。しかし、Mさんは絶対持っていないのです(なんでやねん)。しょうがないので周囲の人が準備する羽目になる。んで、それは大抵グループを組まされている私の役割になってしまうのです。でも、当然持ってないので筆談に至らない。私が準備しておけば、スムーズに筆談できたのかもしれません。が、やった事はなかったです。なぜかいっつも忘れてしまっていました。それに

なんで私がそこまでしなくちゃいけないんだ?

という反発が、内心盛大に発生しておりました。単なるクラスメイトなのに、なんで私が?そこまでお膳立てしなくちゃ、意思表示してくれないのか?あんたは何様だ?と。

Mさんとの筆談の必要性が生まれるのは、大抵グループ学習の時です。その時の流れを分かりやすく書くと、以下こんな感じ。

Mさんの考え・意見が知りたい! →筆談しよう!→筆談用の紙(メモ帳等)がない ! (ハタと気付く)→慌てて探すが見つからない→筆談できない→そこで諦めて終了

そもそも私自身Mさんとの筆談の必要性を認めながら、なぜか乗り気ではありませんでした。その理由は、前述したものの他に三つ。第一にMさんの書く字を読みたくなかった。そう、例の「釘を曲げたようなカクカクした字」のことです。なぜかあの字が生理的に受け付けなかったのです。じっと見ていると鳥肌が立ってくるのです。第二に、そもそもMさんとそこまでコミュニケートしたくなかった。私にとって彼女は友達ではありません。「押しつけられた変人」でしかなかった。友情を結ぶ相手ではなく、同情の相手に過ぎない人。そこまでして意思疎通しなくてはいけない重要人物、ではなかったのです。別に筆談しなくても、MさんはYes/Noは首振りで答えます。彼女の意見をわざわざ聞かなくても、それでグループ学習は進むのですから。この方法でMさん本人も特に不満はないようでした。第三に、先生の指示がなかったから。先生は「この子と2人組みを組んであげて?」とは言ってくるものの、「筆談してあげて?」とは言わなかったのです。だからこそ、私は筆談用紙を毎度毎度忘れていたのかもしれませんが。

先ほど「筆談を最も必要としているのは、Mさん本人」と書きましたが、この認識自体が間違っていたのかもしれません。彼女の意見を聞こうとした、私が必要としていただけで。えーっと、つまり、全ては私の独り相撲?ってことですか。なんか虚しいですねぇ。まぁ仮に、私が筆談用紙を用意したとしても、それが吉と出たかどうかは疑問です。「うちの子を障害者扱いするな! 」とMさんの親が怒鳴り込んでくる可能性もあった訳で。

蛇足:筆談に限らず、Mさんが周囲と交流したがっているような様子は、全くありませんでした。「口で話せないなら手で話したらどうか?」と、手話で話しかけようと考えた事もあるのですが、私は手話を知らなかったので無理でした。手話を自習してやってみればよかったのですが、Mさんのためにそこまでする気にはなれなかったんですよね。

投稿者: 管理人富永

関東在住。気がついたらアラフォー。女性。

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