口がきけない子の話 6 慈悲か見下しか

Mさんとセットにされていた私は、彼女に対して同情と妙な義務感をもっていた、と以前書きました。そしてうんざりしながらも、担任の頼みを断れなかったとも。断れなかった理由として、その二つの感情が変な方向に影響し合った結果、もあったかもしれないとも思えます。そして、「変な方向に影響し合った」結果として生まれたのは、

私にできることをしよう!

という決意でした。一見何の問題もない決意です。が、そこに至るまでの思考回路が小学生にしてはややアレなものでした。当時の思考を簡単にまとめたのが、以下の段落の内容です。

この子は親から愛されない可哀想な子なんだ。 私は親じゃないから愛はあげられない。でもクラスメートとして優しくすることはできる。たくさん優しくしてあげよう。だって可哀想じゃない!2人組みを組んであげよう!グループに入れてあげよう!私にできることを目一杯しよう!

慈悲なんだか、見下しなんだか。よくわからない考えでした。自分としては当然!慈悲のつもりでした。

また、同情と妙な義務感以外の感情も一応持っていました。その一つは

ホントにこんな人いるんだ!

という感動?でした。こんな人、というのは「耳が聞こえているのに喋らない人」のこと。童話などでたまに「耳が聞こえているのに喋らない人」が登場します。が、幼少期の私は「そんな人っているのか?」と半信半疑でした。聞こえているのに喋らない、ということが想像できなかったのです。しかし、今現在そんな人が目の前にいる!!ホントにいるよ!!と。まるで珍獣を発見した様な感覚でした。

もう一つは

なんて頑固な、強情な子なんだろう!

という驚き。宥めても透かしてもぜーったいに口をきかない、その姿勢に対してでした。学校生活において「口をきかないメリット」なんて全くないのに、なぜそこまで意地を張るのかが全然わからない。驚くやら呆れるやら。

さて、あらゆる意味で普通でないMさん。に対してこの子は障害児なのか?という疑問は当然持っていました(月に一度は心に浮かんでいた)。しかし、一体何の障害なのか。「耳が聞こえているのに喋らない障害」なんて果たしてあるのか。小学生には見当もつきません。周囲に聞くことすらできませんでした。何か怒られそうな気がして。そもそも誰にきけば良いのかがわからない。そして、Mさんの親も学校も何も言ってこない。親が何も言ってこない以上、外野としては何もできない。当然Mさんが特殊学級に移動することもない。彼女を特別扱いすることはできないし、どんな配慮をすればいいのかもわからない。もうそのまま放置するしかありませんでした。

Mさんは、障害児なのか健常児なのかよくわからない謎の人、「普通でないのに普通学級に通っている」超ド級の変人でした。

投稿者: 管理人富永

関東在住。気がついたらアラフォー。女性。

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