「岩月謙司」を振り返る9 本を買わなかった訳5

理由10  「父と娘」の関係性にやたら執着している

岩月は、その著作全般にわたって「父と娘」の関係性に、異様に執着しています。もちろん、「母と息子」についても書いてますが(なぜ、母親は息子を「ダメ男」にしてしまうのか  講談社プラスアルファ新書)、総合的にみて圧倒的に「父と娘」についての言及が多いのです。その執着が変な形で表れているのが、①父と娘の入浴、そして②父と娘のセックス、についての記述です。もー、気色悪い話が山盛りでした。

①父と娘の入浴

この記述は岩月の著作にしょっちゅう出てきます。もはや岩月理論の根幹とも言えるレベルです。これは「父が娘に対して性を超えた聖なる愛で接しているか見分ける方法」で、「◯歳まで父と一緒に入浴できたら正しい父性愛をもらった証拠」らしいのですが、不思議なことに、その「◯歳まで」の部分が著作によってバラバラなのです。ある本では「生理が始まるまで」なのに、別の本では「20歳になってもおかしくない」だったり。日本人女性の平均初潮年齢は、12歳前半(日本思春期学会)ということからすると、その差は8年。なぜこんなに開きがあるのか。この時点で何か怪しい。ちなみに、日本風呂文化研究会の調査(2018)によると、父と娘の入浴率は9歳の時点で50%です。そして欧米では、父と娘の入浴は性虐待として禁止されています。岩月理論が正しい、とすると「日本人女性の半分以上は正しい父性愛をもらっていない」、「欧米人女性は全員正しい父性愛をもらっていない」ということになってしまいます。これって、どうみても変ですよね?

また、岩月理論では「娘は父への信頼の証として、自分の体を父に見てもらいたくなる」、「恥ずかしさより、父親への信頼を優先させようとする」らしいのですが、

そんな訳あるかー!!フツーに恥ずかしいわー!わざわざ見せるか!ボケ!

としかいいようがない。えぇ、私は全く思わなかったのです、「身も心も見てもらいたい」なんて。いやー、この部分を初めて読んだ時は、ギョッとしましたよ、もう鳥肌立ちまくり。そしてその後、なぜか軽く落ち込んでしまいました。「私は、父性愛を十分にもらっていなかったのだろうか」と(もしかしたら、これも岩月の仕掛けたワナなのかもしれませんが)。この辺りは考えると泥沼にはまってしまうので、心を麻痺させて流し読みしていました。しかし、現在の性教育では「水着で隠れる部分(プライベートパーツ)は、親であっても侵入不可(見せたりなんだりしない)」とされていて、これは、岩月理論を真っ向から否定しています。性教育アドバイザーの方が、岩月理論をどうジャッジするのか、大変興味があります。

ちなみに、対談相手の漫画家・くらたまこと倉田真由美氏は、「中学生で父の入浴していると不審がられる」と、岩月理論に疑念を呈しています(珍しく)。そして娘の母になった現在、この理論に対して何か思うことはないのかと聞いてみたい。

それと岩月は、『娘が自分を守ってくれる「騎士」だとお父さんを認識すると、体から信頼のサイン、 つまり「娘のサイン」を出す』、『これこそがお父さんから「オス」を消滅させるサイン』と述べていますが、「娘のサイン」って具体的になんなんでしょう?フェロモン?視線?それとも言動?著書には、全く記述がありませんでした。「お父さん認定証」とは書かれてるものの具体的にはサッパリ。もっとまともに説明してくださいよ、一応学者の端くれなんだから。しかしこの「娘のサイン」、かなり危険なロジックだな、と今気づきました。性虐待の被害者に対して、悪意を持った人間が「お前が娘のサインを出さないからだ」等、難癖をつけることも可能なんですから。

蛇足ですが、岩月理論では「高校生になった息子が母と一緒に入浴するのは、単なるマザコン」だそうです。なんというダブスタ。そして「父性愛をタップリ」という表現もまた気持ち悪かったですねぇ。なんでわざわざ「タップリ」と、そこだけカタカナで書くんだよ…

②父と娘のセックス

この記述もやたらに多かったと記憶しています。とにかく猛烈に気持ち悪くて、おぞましくて、うんざり。もう、本を放り出して、その場から遁走したくなりました。でも、「ひょっとしたら、もしかしたら本当なのかもしれない」という思いが拭いきれず、ずるずると読み続けてしまったのです。一見矛盾なく、つるつると文章が続くので歯止めが効かないというか。ちなみに「母と息子のセックス」については一切合切記述はないです。これに関しては、気持ち悪すぎてそれ以外の感覚がまともに思い出せず、書けることがほとんどありません。すみません。

以上のような岩月の「父と娘」の関係への異常な執着からして、私は、きっとこの人にも娘がいて、それなりに問題意識や関心があるからなのかな〜、と思っていましたら、なんとこの人には娘がいない!と聞いてびっくり(息子が二人いるらしい)。一気に違和感が膨れ上がりました。なんでここまで「父と娘」にここまでフォーカスしているのか。別に、身近なところに関係者がいなければ、研究してはいけない訳ではないのですが、着眼点がおかしいんですよ。「娘の裸を見たら、父は勃起するか?」なんて発想、普通は出てきません。当然自分の娘にインタビューした訳でもなし。参考文献も一切なし。まともな調査結果もなし。岩月は女子学生相手にアンケートをとったらしいのですが、詳細な分析結果もなかった気がします。そもそも、女子学生は岩月から評価される立場ですから、岩月の顔色を窺ってその主張に合致する回答を返してくる可能性が大であり、アンケートとしての精度はあまり高くないのではないでしょうか。しかし、ここまで無い無い尽くしの理論に対して、編集者も校正者も何も言わなかったのが不思議です。そして、それがベストセラーになってしまったことも。心理学会からは無視されていたらしいですが、学会はきちんと批判しておくべきだったでしょう。

 

 

 

投稿者: 管理人富永

関東在住。気がついたらアラフォー。女性。

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