漫画版ナウシカの道化師

映画版よりも深く重いテーマと、広大な世界を描いたと名高い漫画版・風の谷のナウシカ。私も大好きです。今度歌舞伎になる様で。初めて目にしたのは小学校高学年の頃、従姉妹の部屋にてパラ読み。本格的に読み込んだのは中学生の時でした。夢中で読みましたが、あることが心に引っかかっておりました。

それは、トルメキアのヴ王に貼り付いている道化師。特徴をまとめてみるとこんな感じの人です。

  • すごく背が低い
  • 自分より醜い者を見て嬉しがる
  • 鈴のついた縞模様の服を着ている
  • 王様に皮肉言い放題 でも罰せられない
  • 最後はクシャナへの王位譲渡の証人になる

この人はなんなのだろう?専属コメディアンみたいなものかと思ってみましたが、何かが違う。ギャグや寸劇を演ずるわけでもなく。そもそも、なぜこんなに背が低いのか。考えても全く分からない。リア王にも出てきた道化。やっぱり王様に対して皮肉言い放題、でもお咎め無し。一体道化とはなんなのか、しっかりした説明がどこにも見当たらないのです。

この謎を解いたのは、「怖い絵2」を始めとする中野京子氏の著作でした。彼ら道化師は「慰み者」と言われ、召使いというよりペットの様な存在だった。心身に障害のある人が大半(小人症・巨人症など)で、彼らは王侯貴族から「装飾」として「ステイタス」として「富の誇示」として、また「引き立て役」「慈悲深さを演出するため」に集められ養われていた。彼らは人間扱いされていなかったが、それ故に大抵のことでは罰せられなかった権力者を批判しても。それがやがて「道化の特権」となり、知能が正常でも道化になる人が増えた。ということだそうで。

いやはや、衝撃。生きた人間が愛玩物として扱われていたとは。巨人をかき集めた王様がいたことは知ってたんですが、まさか小人まで集められていたなんて。しかし、「障害者はその昔、権力者のペットみたいなものだった」なんて、現代の良識からすると口にすることすら憚られることです。詳しい説明が見当たらないわけです。

これで、疑問は全て解けました。背がすごく低いのは小人症だから。醜いことも道化の才能の一つ。鈴のついた縞模様の服は道化の制服。王様への皮肉は「耳に痛い真実を語る」という大事な仕事。だったのです。

映画「エリザベス」でも似たようなシーンがありました。エリザベスが、豪華なドレスを着た小柄な成人女性(表情が明らかに大人)を抱っこしているシーンです。「侍女?にしては服が豪華すぎるし、侍女を抱っこするのは不自然だな」と思ってたんですが、彼女も「慰み者」の一人だったんでしょう。子供のいないエリザベスの愛玩欲求を発散させるために、小人症のあの人が側に置かれたんだろう、と今となっては推測できます。

「障害者は何をやっても批判されない」というのは、現代でも悪い形で残っている気がします。障害のある人が迷惑行為をしても、なぜか迷惑を被った側がたしなめられる、というアレです。「この子は何もわからないの。怒ってどうするの?」の様に。これはある意味、彼らを人間扱いしてないってことですよね?そして、「自分の立場の強化のために障害者を利用する」というのもやはり残っています。3年前の参院選、「五体不満足」で有名な某氏に出馬要請がきましたが、「わが党は差別しません!」という主張のアリバイ作りに利用されたような感があります。この御仁についてはその内詳しく書きたいです。

蛇足:「奴隷マーケットにおける不具者の値段は、現代のペット市場における珍種と同じく、非常に高価だった」という文、「アルビノのヘビやカメは、ありふれた種類であっても値段が数十倍になる」という話を思い出しました。

参考文献:怖い絵 泣く女篇 中野京子 角川文庫

投稿者: 管理人富永

関東在住。気がついたらアラフォー。女性。

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