「岩月謙司」を振り返る4

さて、そんな状況で私は、岩月逮捕後の世間の反応を見守っていた訳です。が、それが予想と全然違ったのです。

私は当然、非難・批判の大合唱になる、と予想していました。せめて旧石器捏造くらいには。でもそうではなかった。もちろんTV・新聞・週刊誌でそれなりに取り上げられてはいるのですが、全体的に歯切れが悪いというかなんというか。

  • ベストセラー本の作者が、自らの理論を悪用してこんな卑劣な真似を‼︎
  • そもそもこの理論はまともなのか?
  • 出版社は何を考えてこの本を企画した?
  • 大学の監督責任は?
  • 共著者の今の心境は?

…と連日連夜の大騒ぎ、とはならなかったのですね。性犯罪なので被害者のことを考慮して二の足を踏んだ、とも取れますが、客観的に見てかなり変でした。真面目な検証番組や検証記事も、TVや新聞では目にしたことはありません。つまり、鋭く切り込む大手メディアがなかった。

一番意外、かつ不満だったのが、上野千鶴子や田嶋陽子といったフェミニストたちが、何の反応もしていなかったこと。フェミニストたちにしてみれば「女は〜というものだ」という決め付けが多発する本なんぞ、天敵同然なはずなのに何故でしょう?

バカバカしくて相手にしていられないのか?図星すぎて反論できないのか?

どっち?と、自分なりに仮説を立ててみたものの、あまりに正反対なので、どちらも信じる気になれないという始末。前者だとしたら、フェミニストとしての責任の放棄ともいえるし、後者だとしたらフェミニズムの敗北です。いずれにせよ、インチキ理論が世間に広められていくのを放置していた結果、被害者が出てしまった訳です。これでいいのか、フェミニズム?

また、精神科医や心理学者・カウンセラーの団体もロクに動いていませんでした。精神科医の香山リカは、逮捕前の岩月と一度対談してはいるのですけど、これは完全に期待はずれでした(のちに詳しく書きます)。特にカウンセラーなんて、業界全体の信頼に関わるのだから、危機感を持って行動すべきだったんじゃないですかね。「私はカウンセラーではない」と明言する人物が、堂々とカウンセリングをしている、という状況に違和感を持った人は1人もいなかったのか。「擬似科学ときちんと向き合うこと」で実害を減らす方向へシフトした科学界を、少しは見習ってほしかったです。

共著者で本の装丁も手がけた漫画家・倉田真由美も、逮捕直後から今に至るまでなんのコメントもしていません(私の知る限り)。逮捕直後は「推定無罪」だからコメント不可、なのはわかるのですが、有罪確定以降もダンマリを決め込むのはいかがなものか。「だめんず・うぉーかー」の作者が対談・共著したことで、岩月のインチキ理論の信憑性が強化され、本の売り上げが伸びる。それが「岩月信者」を増やし、ひいては被害者をも増やした可能性があるのですが。

真っ向から批判していたのは、私の知る限り、作家・ジャーナリストの日垣隆と、予備校講師の川原崎剛男くらいでした。しかも2人とも、批判は逮捕前からです。日垣氏は「非科学的な酷い本」とバッサリ(文藝春秋「いい加減にしろよ(笑)」)。川原崎氏も、「アダルトチルドレンの焼きなおし」・「トンデモ本の一種」とこれまたバッサリ(廣済堂出版 みっともない日本のバカたち)。「アダルトチルドレン〜」の批判はネット上でも存在し、中には「宗教っぽい」という批判もあったようですが、それが世間の主流にならなかったのは残念です。